アドラー心理学Q&A

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現代社会とアドラー心理学

アドラー心理学を学ぶことで、自己理解が深まり、対人関係の葛藤解決法や「勇気づけ」を学ぶことを通じて、自分の人生を主体的に切り開いてより調和のとれた充実した生き方を実現するための知恵と勇気が得られます。

アドラー心理学を学ぶことで期待できる個人の変化は多岐にわたりますが、まず、自己理解が深まり、自分の行動や感情の背後にある目的やライフスタイルに気づくことができるようになります。これにより、不適切なパターンを変え、より建設的な生き方を選び取る力が養われます。また対人関係においては、葛藤の解決方法を学ぶことで、不必要な摩擦や悩みが軽減されるでしょう。さらに、共同体感覚を学び「勇気づけ」を実践することで、自分自身や周囲の人間の人間的成長が得られるかもしれません。総じて、自分の人生を主体的に切り開き、より調和のとれた充実した生き方を実現するための知恵と勇気が得られるでしょう。

アドラー心理学は、優劣を競うのではなく「違いを認め尊重する」平等観を持ち、他者との比較から自分自身の成長と人々への貢献へと視点を移し、異なる価値観にも寛容になり建設的な対話を促すという、より良い未来のための理想を掲げることで、現代の生きづらさを乗り越える示唆を与えます。

アドラー心理学は、現代の生きづらさに対するアンチテーゼであるとともに、建設的な生き方への処方箋でもあります。

まず、アドラー心理学で言う「平等」とは、誰もが同じであることではなく、「それぞれの違いを認め、尊重すること」です。身長、能力、文化、価値観が違うのは当たり前であり、そこに優劣はありません。この考え方は、「人と同じでなければならない」「人より優れていなければならない」という強迫観念から私たちを解放してくれます。

またアドラー心理学は、社会が押し付ける競争から降り、自分自身の価値や幸福の基準を持つことを促します。他者との比較ではなく、自分自身の成長や他者への貢献に喜びを見出す生き方への転換です。それは、社会において自分なりの貢献ができる持ち場を見つけることに繋がります。

そしてアドラー心理学は、自分と違う意見や価値観に出会ったとき、それを「間違い」として断罪するのではなく、「そういう考え方もある」と受け入れる寛容な姿勢を育みます。これは、人間関係の摩擦を減らし、建設的な対話を可能にします。

これらは、現実離れした理想論だと批判されるかもしれません。しかし、現実(ザイン)だけを見ていては社会は良くなりません。アドラーのように、人間が協力し、調和して生きるという理想(ゾーレン)を掲げ続けることが、より良い未来を創造する原動力になるのです。

アドラー心理学では人間関係について、機能重視の「ゲゼルシャフト(社会組織)」と仲間同士としての「ゲマインシャフト(共同体)」とを区別して捉えており、前者の問題であるマネジメントや業務上の困難などには対応できませんが、人間同士の揉め事といった後者の側面であれば具体的なエピソードを伺って対応可能です。

ご質問が広いため具体的なアドバイスは難しいですが、アドラー心理学の観点からのヒントをお伝えします。アドラー心理学からは、人間関係は次の2つに分類できます。

ゲマインシャフト(共同体):家族や親しい友人関係のように、自然発生的な相互理解に基づいた人間関係で、人々が対等な横の関係で協力し合うことにより成立しています。伝統的な地域社会もこちらに含まれます。仕事上での人間関係でも、自然発生的なユーザーコミュニティなどは、こちらに該当する可能性があります。
ゲゼルシャフト(社会組織):会社などのように、特定の目的のため人為的に作られた組織で、そのため機能性が何よりも重視されます。事業目的や経営上の重点項目を実現するための一定の価値観を持ち、そのもとでの序列を基本構造として成立しています。

この定義からは、職場というものは基本的に「ゲゼルシャフト(社会組織)」に該当しますが、しかし少なからぬ職場には、「ゲマインシャフト(共同体)」的な仲間意識もみられるのではないでしょうか。

したがって、職場の人間関係のお悩みといっても、大まかにいって、

  • 組織の中での上手な身の処し方や、あるいは部下を統率する上での悩み
  • 仕事仲間あるいは職場の上下関係の中での、いわゆる人間同士の揉め事についての悩み

この二通りが考えられます。このうちアドラー心理学が関わるのは後者、つまりゲマインシャフト(共同体)としての側面についてです。具体的なエピソードをお聞かせくだされば対応が可能です。

他方、前者のような社内政治の苦労や人事上の困難、顧客への対応などについては、それらはあくまでマネジメントやマーケティングの領域であって、アドラー心理学が直接に解決策を提示できる範囲にはありません。仕事上のあらゆる問題にアドラー心理学が対応できるわけではないのです。むしろビジネスの領域に無理をしてアドラー心理学を当てはめても、そもそもゲマインシャフトは機能主義的なものではありませんから、効率や合目的性の点において、概ね良い方向には進まないことと思われます。