「全ての悩みは対人関係の悩みである」と断言していますが、病気や死別、自然災害による苦しみは対人関係の悩みではないのではないでしょうか?

Category: 対人関係について

病気や災害などの直接的な苦痛は生理的なものですが、そこから生じる主観的な「悩み」は、他者との別離の辛さや悲しさといった対人関係の文脈で意味づけられ体験されます。

病気や事故、災害等に遭遇した際の直接の痛みや苦しみは、いわゆる人間心理上の「悩み」以前の、生理的なものです。アドラー心理学が対人関係上の問題だと指摘するのは、それら個別の苦痛に対して個人が覚える主観的な諸症状、つまり「悩み」についてです(ただし主観的といっても、脳機能の不調から直接生ずる抑うつ気分や、幻覚・せん妄・妄想等の症状に伴う恐怖感などについては生理的苦痛に属すると考えられます)。

人間は対人関係に深く組み込まれた存在であり、いかなる出来事も、最終的には対人関係上ないし社会的な文脈から意味づけられた形で体験されます。たとえば、いずれ誰しもに訪れる自分自身の死にしても、それに先立つ病苦等の生理的な痛みや苦しみとしてだけではなく、対人関係上の悲痛な出来事として、つまり死に伴って避けられない、本人と他者との別離の辛さや悲しみとして体験されるのです。