アドラー心理学で最も有名な概念である「劣等感」とは何ですか?

Category: 主要概念

アドラー心理学でいう「劣等感」とは、理想と現実のギャップや他者比較から生じる「自分には価値が少ない」という後天的な思い込みであり、人を不毛な「優越性の追求」へと駆り立てる不幸の源泉となる感覚です。

アドラー心理学における最も重要な概念は「共同体感覚」ですが、有名であるという点では「劣等感」が一番かも知れません。アドラーは「劣等感」を、「不完全である成就していないという感覚」と述べました。すなわちアドラー心理学における「劣等感」とは、「自分は他者よりも価値が少ない」という思い込み・感覚だけを指しているのではなく、もう少し広く、その人が理想とする状態とは違う現実に遭遇したときに起きる感覚も指しています。ドイツ語の原語「Minderwertigkeit」は、文字通り「価値がより少ない感じ」を意味します。これは本来、理想通りでない自分には価値が少ない、という意味あいですが、現代のような競合的な社会においては「劣等感」とは、もっぱら「人に比べて自分は○○の点で劣っている(から自分には価値がない)」という意味で使われています。

本来、人間の赤ちゃんは、他者との優劣を比較しない「平等」な世界に生きています。しかし、子どもが成長し言葉を覚え、社会生活を送る中で、以下のようなプロセスを経て劣等感を抱くようになると考えるアドラー派の学者もいます。

  1. 「区別」の学習:優れたものと劣ったものの「区別」を学ぶ。
  2. 「勇気くじき」:親や教師から「それじゃダメ」「なんでできないの?」といった言葉をかけられること(勇気くじき)で、「自分は劣っている存在だ」と思い込む。

この結果、かつて感じていた世界への所属感や安心感を失ってしまいます。人は「私はこういう点で劣っている」という劣等感(相対的マイナス)を抱くと、失った「平等」の感覚を取り戻そうと、「私はこうでなければならない」(例:「人の上に立たなければならない」「人に好かれなければならない」)といった、その人にとっての理想の姿である「相対的プラス」という目標を立てて、劣等感を補うための「対処行動」を起こします。つまり、「劣等感(相対的マイナス) → 対処行動 → 目標(相対的プラス)」というプロセスが生まれます。

しかし、根底にある劣等感は消えないため、その目標は追いかけても決して到達できない地平線のように逃げていきます。そのため、常に不安を抱え、緊張し、努力し続けなければならない状態に陥ります。要するに、劣等感とは、後天的に意味づけられた「自分には価値がない」という幻想であり、人々を終わりのない「優越性の追求」という不毛な努力へと駆り立てる、不幸の源泉であると捉えられています。