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カウンセリングと応用
「治療的人間関係」とは、アドラー心理学カウンセリングの基本となるルドルフ・ドライカースが提唱した「良い相談関係」を指し、カウンセラーが能動的に関わる「相互尊敬」「相互信頼」「協力」「目標の一致」という四つの条件を満たすものです。
「治療的人間関係」とは、カウンセリングにおける「良い相談関係」を指し、その構築のためにルドルフ・ドライカースが提唱した「四つの条件」がその核心となります。これは、カール・ロジャーズが提唱した「受容」や「共感」といった姿勢とは異なり、セラピスト側がより能動的に関わっていく点を特徴としています。カウンセリングが上手くいかない場合、その99%はこの四つの条件のいずれかが満たされていないからであり、したがってこれらは、セッション後に常に自己点検すべき極めて重要な実践項目となります。この「治療的人間関係」を構成する四つの条件は以下の通りです。
- 相互尊敬
これは単に敬うことではなく、相手を「一回性(Einmaligkeit)」を持つ、かけがえのない「歴史的存在」として捉える、深く能動的な姿勢を指します。相互尊敬とは、語源である「re-spect(再び見る)」が示すように、相手を一人の人間として改めて見つめ直し、その人生の歴史全体を丸ごと掴もうとすることです。この姿勢を通じて、相手の現在の言動が、その人が生きてきた歴史の中で形成されたライフスタイルに根差していることを理解し、深いレベルで相手を尊敬します。 - 相互信頼
これは、クライアントがどのような状態にあっても、その人の最も根本にある「健常で健康な適応努力をする力」を絶対的に信じることです。現在見られる不適切な行動(神経症的策動)は、その人の健康な努力が過去の関係性(例:親子関係)の中で破綻した結果であり、本質的にその力自体が失われたわけではないと理解します。これは精神科医療のような困難な現場で特に不可欠な姿勢ともいえます。 - 協力
これは、セラピストとクライアントが「共に働く(ドイツ語: Mit-arbeit)」という対等な共同作業を行う関係性を意味します。セラピストがクライアントを一方的に「癒す(ヒーリングする)」という縦の関係ではなく、「人生の一時期を共に歩む」という横の関係を築くことです。共に作業し、共に時間を過ごすことを通じて、クライアントのその後の人生に良い影響が残ることを願う、温かい関わり方を指します。 - 目標の一致
これは、関係者間で「目標についての同盟」を結ぶという、意識的かつ契約的な関係を指します。日本文化に見られがちな「仲間だから」といった曖昧な関係ではなく、達成すべき目標、互いの役割、協力する範囲としない範囲を明確に言葉にして合意します。人間は一人では不完全で協力が必要ですが、その協力関係は明確な合意に基づかなければ、誤解やトラブルの原因になると考えます。カウンセリングの冒頭で「何を目標とするか」を合意することで、その後のプロセスが不当な介入や単なるお説教になることを防ぎ、生産的な協力関係を築きます。
