アドラー心理学カウンセリングにおける「治療的人間関係」とは何ですか?

Category: カウンセリングと応用

「治療的人間関係」とは、アドラー心理学カウンセリングの基本となるルドルフ・ドライカースが提唱した「良い相談関係」を指し、カウンセラーが能動的に関わる「相互尊敬」「相互信頼」「協力」「目標の一致」という四つの条件を満たすものです。

専門的なご質問なので、少しばかり踏み込んだ回答となります。

「治療的人間関係」とは、カウンセリングにおける「よい相談関係」を指し、構築にあたっては、ルドルフ・ドライカースが提唱した「四つの条件」がその核心となります。これはカール・ロジャーズが提唱した「受容」や「共感」といった姿勢とは異なり、カウンセラー側がより能動的に関わっていく点を特徴としています。カウンセラーはこれらについて、カウンセリングが上手くいかない場合はもちろん、セッション前からセッション中、そしてセッション後にわたって常に自己点検しなくてはなりません。「治療的人間関係」を構成する四つの条件は以下の通りです。

  1. 相互尊敬
    これは、相手を単に敬うことではなく、「一回性(Einmaligkeit)」を持つ、すなわち一度きりのかけがえのない「歴史的存在」として捉えようとする、深く能動的な姿勢を指します。相互尊敬とは、語源である「re-spect(再び見る)」が示すように、相手を一人の人間として改めて見つめ直し、その人の人生の歴史全体を、丸ごと掴もうとすることなのです。この姿勢を通じて、相手の現在の言動が、その人自身がそれまでの人生を通じて形成してきたライフスタイルに根差していることを理解し、その人のさまざまな言動は、「所属」のための力一杯の努力なのだ、という視点でその人と向き合います。なお相互尊敬の「相互」は、まず自分自身が相手の人を尊敬することから始めます。相手から尊敬されたらこちらも尊敬する、という向き合い方では決してありません。
  2. 相互信頼
    これは、クライアントがどのような状態にあっても、その人は基本的に自分の問題を自分の力で解決する力があるのだと無条件に信じることです。野田やアドラー心理学の教師はよくこれを「白紙の小切手を切る」と表現しました。とはいえ、人はすべての問題を自分1人の力で解決できると、アドラー心理学は考えていません。相手が問題を解決するにあたって、何らかの手助けが必要かもしれないのです。それは何だろう、と、クライエントとともに考えていくことがカウンセリングの一つの重要なプロセスになります。なお「相互信頼」も「相互尊敬」と同様に、まず「私」の方から相手を信頼します。その結果、相手もこちらを信頼してくれるならば、そこで「相互信頼」が成立します。「そちらから先に信頼してよ」とか「あなたが信頼してくれれば私も信頼しましょう」というような向き合い方は、「信頼」ではない、とアドラー心理学は考えます。
  3. 協力
    これは、カウンセラーとクライアントが、問題解決に向かって「共に働く(ドイツ語: Mit-arbeit)」という対等な共同作業を行うこと、またはそうした関係性を意味します。カウンセラーがクライアントを一方的に「癒す(ヒーリングする)」のではなく、役割は違っても「人生の一時期を共に歩む」という横の関係を築きます。共に作業し、共に時間を過ごすことを通じて、クライアントのその後の人生に良い影響が残ることを願う、温かい関わり方を指します。
  4. 目標の一致
    これは、クライエントとカウンセラーの間で、カウンセリングで何を解決するか、つまりカウンセリングの目標を明確に話し合い合意することです。先の三つの項目「相互尊敬」「相互信頼」「協力」の上に、この「目標の一致」がなされます。日本文化に見られがちな「仲間だから」「察して」といった曖昧な了解ではなく、カウンセリングの解決目標、互いの役割、協力する範囲やしない範囲などを、明確に言葉にして合意します。人間は一人では不完全であり、問題解決のために他者との協力を必要としますが、その協力関係が明確な合意に基づかなければ、誤解やトラブルの原因になると考えます。カウンセリングの冒頭で「何を目標とするか」を合意することで、その後のプロセスが不当な介入や単なるお説教になることを防ぎ、建設的な協力関係を築きます。

この「相談的人間関係」は、カウンセリングに限らず、様々な領域でアドラー心理学を実践する場合に必要です。たとえば育児、教育、医療・福祉などはもちろん、日常的な、友人関係や職場での人間関係などでも、相手と「相談的枠組み」にある場合は、常にこの「相談的人間関係」を意識する事が極めて重要となります。

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