誰かの相談に乗る際の、アドラー心理学からのアドバイスはありますか?

Category: カウンセリングと応用

世間一般の相談に乗る際のアドラー心理学からアドバイスは、まずどのような相談なのか、この相談で何を目指すのかをお互いに明確にし、相手の能力を信じ「相互信頼」と「相互尊敬」に基づく対等な関係のなかで相談に応じ、具体的な「エピソード」から「原因」ではなく「目的(競合的か協力的か)」を分析し、答えを与えるのではなく複数の「選択肢」を提示して相手自身に解決策を選んでもらうことです。

以下は専門的なカウンセリングの話ではありません。いわゆる世間一般でいう、「ちょっと相談に乗る」といった話です。これらは単なる聞き方のテクニックではなく、アドラー心理学に基づいた、相談相手が自らの力で問題を解決できるようになるための心構えと具体的な手法です。

相談に乗る前の大前提と心構え
まず、具体的な技術に入る前に、相談に乗る上で最も重要となる3つの前提があります。

  1. 相談は「契約」である
    最も基本的なルールは、相手からの明確な要請なしにアドバイスを始めないことです。「相談に乗ってほしい」「意見が欲しい」という双方の合意(契約)があって初めて、相談は成り立ちます。いきなり「こうした方がいい」と助言するのは、相手の領域に踏み込むルール違反です。
    また、これは相談を受ける側にも言えることで、自分の専門外であったり、対応が難しいと感じたりした場合は、無理に引き受けず断る権利があります。
  2. 相手を信じ、解決を「委ねる」姿勢を持つ
    相談に乗る側が陥りがちな間違いは、「自分が相手を助けてあげなければ」「正しい道に導いてあげなければ」という支配的な考え方です。
    重要なのは、「相手は自分の力で問題を解決できる能力がある」と心から信じること、です。相談に乗る者は、あくまで選手本人ではなく「コーチ」です。試合に出るのは相手自身であり、私たちはその人が力を最大限発揮できるよう手伝うだけで、代わりに問題を解決することはできません。この信頼関係がなければ、本当の意味での援助は不可能です。
  3. 相性がすべてであると知る
    医者選びと同じように、相談においても相談する側とされる側の「相性」が非常に重要です。どんなに優れた専門家でも、相性が合わなければ良い結果にはつながりません。もし相手が自分に合わないと感じているようであれば、無理に関係を続ける必要はありません。お互いに「この人とならやっていける」という感覚が大切です。

すべての土台となる「良い人間関係」の築き方
良い相談は、良い人間関係という土台の上にしか成り立ちません。テクニック以前に、以下の4つの条件を満たす関係を築くことが不可欠です。

  1. 相互尊敬
    相手を「間違っている」「劣っている」と裁くのではなく、一人の対等な人間として敬意を払うことです。たとえその行動が問題に見えても、「その人なりに、自分の理想に向かって一生懸命生きている」という善意を認めます。
    重要なのは、「人格」とその人の「行為」を分けて考えることです。ある「行為」が問題であっても、その人の「人格」を否定してはいけません。
  2. 相互信頼
    前述の「相手を信じる姿勢」と同じです。相手の能力を信頼し、課題を乗り越える力を信じ、最終的な決定を本人に委ねます。
  3. 協力
    上下関係で「指導する」のではなく、対等な立場で「役割分担」をしながら、共通の目標を目指すことです。相談に乗る側と乗られる側では役割が違いますが、人間としての価値は全く同じ「平等」な関係です。
  4. 目標の一致
    「この相談がどうなったら成功(終了)なのか」というゴールを最初に共有することです。「夫婦関係を修復したいのか、それとも円満に離婚したいのか」など、目指す方向性を最初に明確にすることで、建設的な話し合いが可能になります。

問題を深く理解するための具体的な分析手法
良い関係を築いた上で、以下の手法を用いて問題を分析していきます。

  1. 「エピソード」に焦点を当てる
    「いつも夫が冷たい」といった漠然とした話(レポート)ではなく、「昨日の夜、こんな出来事があった」という具体的な一度きりの出来事(エピソード)を詳しく聞きます。具体的な状況の中にこそ、問題の本質が隠されています。
  2. すべての行動を「目的」から理解する(目的論)
    人の行動を「何が原因か(原因論)」で見るのではなく、「その行動によって、どんな目的を達成しようとしているのか(目的論)」という視点で見ます。
    すべての行動は、本人が無意識に「今より少しでも良い状態になりたい」という目的(仮想的目標)のために行われています。不登校も、いじめも、夫婦喧嘩も、その行動を取ることで本人が得ている「良いこと」が必ずあります。
  3. 目標の種類を「競合的」か「協力的」か見極める
    相手の「仮想的目標」を分析する際、それがどちらのタイプかを見極めることが重要です。
    競合的な目標
    「どちらが正しいか/間違っているか」「どちらが善か/悪か」を決め、相手を打ち負かし、裁こうとする目標です。これは人間関係を破壊するだけで、何の解決にもなりません。この場合、「そのやり方では、あなたの本当の望みは叶わないのではないか?」と問いかけ、相手を裁くことの不毛さに気づいてもらう必要があります。
    協力的な目標
    相手を裁く意図はなく、純粋に関係を良くしたいと願っているが、うまくいっていない場合です。この場合、目標自体は素晴らしいものとして肯定します。問題なのは、その目標を達成するための「手段(対処行動)」が間違っていることです。(例:夫に早く帰ってきてほしいのに、不機嫌な態度で責めてしまう妻)

解決へ導くための最終ステップ
分析を通じて問題の構造が明らかになったら、最後は相手が自ら一歩を踏み出せるように援助します。

  • 複数の「選択肢」を提示し、相手に選んでもらう
    「Aというやり方とBというやり方がありますが、どちらを試してみたいですか?」というように、具体的な選択肢を提示し、最終的な決定を相手に委ねます。
    (例:「ご主人が帰りたくなるような家作りを工夫してみますか?それとも、今まで通り不満を伝え続けますか?」)
    相談に乗る側が「こうしなさい」と答えを与えるのではなく、相手が自分の意志で道を選ぶ手助けをすることが、その人の自立と成長につながります。たとえその選択が最適に見えなくても、その決定を尊重し、信頼し続けることが大切です。