AIJについて

 一般財団法人野田俊作顕彰財団 Adler Institute Japan(AIJ)は、故・野田俊作のアドラー心理学に対する多大なる貢献に深く敬意を表し、野田がアドラー心理学教育実践のため1984年に創始した有限会社アドラーギルドの事業を継承しつつ、アルフレッド・アドラーに始まるアドラー心理学の思想・理論・技法を余さず世の人々と次の世代へ正しく伝えていくために設立されました。

 歴史を顧みれば、アドラーからルドルフ・ドライカースへ、ドライカースからバーナード・シャルマンへ、シャルマンから野田俊作へと、師弟関係を通じて真正のアドラー心理学が100年もの間なにひとつ損なわれずに手渡しされてきたことは、まさに奇蹟ともいえます。そのようにして野田が継承し私たちに遺した正統のアドラー心理学を、私たちはこれからもずっと、必要とされる方々に正確な形でお伝えしてまいります。

 私たちは、世の中で一般に「アドラー心理学」と呼ばれている様々な見解に関しては、アルフレッド・アドラー以来のアドラー派固有の臨床姿勢と理論的枠組み内に位置するか、その外であるかを見極め、妥協をせずに臨みます。いわゆるアドラーブームのなかで、アドラーと全く関係のない考え方や、むしろ真逆の姿勢まで含めて「アドラー心理学」と呼ばれる風潮にありますが、たとえ逆風の中だろうと誠実に本来の道を歩むこともまた、私たちが受け継いでいくべき美風のひとつであると考えています。

 かつて野田は、講座や講演等の普及活動に忙しく論文を書く時間がないことを嘆きつつ、また生徒らの手応えのなさには「まるで泥の中に種を蒔いているようだ」などと叱咤しながら、アドラー心理学のプロバイダー(提供者)を養成することに全力を注いできました。「でも、そんな泥の中からも、中には芽を出して花を咲かせてくれる人もいるんです。だから私はその人たちのために私の仕事を続けなければと思うんです」と野田はよく言っていました。

 弟子たるものは師のもとで学びを極めて、いつかは師に比類し、師の思想が指し示す先に向かって新しい道を切り開かなくてはなりません。アドラー自身とその思想を受け継いだ先人たちの崇高な理想に思いを馳せれば、私たちはこれからの道程の果てしなさに眩暈さえ覚えます。しかも、私たちの足元は現代の深い混迷でぬかるんでおり、このぬかるみは科学や理性が万能であると信じることのできたアドラーの時代より、さらに深まりつつあるのです。

 それでも私たちは、このかけがえのないアドラー心理学の普及と振興のため、今後も怠ることなく歩みを進めてまいります。私たちは、やがて私たちの学びが深まり、アドラー心理学に新たな発展の一石を投じる日がくることを信じたいと思います。ちょうど若き日の野田俊作が、「われわれアドレリアンの使命は、アドラーを乗りこえることである。」(1984)と宣揚したように。

 蓮の花は、一本のか細い茎から伸びているのではありません。泥の中の太くて強い地下茎がつながりあい、たくさんの花を支えています。我々ひとりひとりの力は小さいですが、野田俊作の遺した学問を、野田俊作を知らない人々に手渡す地下茎になろうと思います。そうすればきっと、新たな美しい蓮の花々が咲き続けるに違いないからです。

一般財団法人野田俊作顕彰財団 Adler Institute Japan(AIJ)理事
野田文子・大竹優子・中井亜由美

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