深刻な虐待や災害を経験した人の苦しみも、単に「目的」のためにその記憶を利用しているだけだと言えるのですか?

Category: トラウマ・原因論の否定について

アドラー心理学は、深刻な虐待や災害による苦しみを「利用しているだけ」といった軽々しいものとは考えず、むしろその苦しみや不安を、直面した脅威から「自分の身を守る」という切迫した目的のため個人全体が用いていると捉え、その体験への「意味づけ」と「現在の生き方」に焦点を当てて、建設的な方向性を探ります。

目的論に関するお尋ねかと思います。アドラー心理学では、感情もまた、何らかの目的を実現するために用いられていると考えます。つまり個人は、自分にとって重大な意味があるからこそ他ならぬその感情を用いるのであって、「利用しているだけ」などといった軽々しいものではないのです。アドラー心理学は、深刻な虐待や恐ろしい災害に合われた方の、苦しみの現実やその深さを否定するものではありません。その後も続く気持ちの動転や強い不安まで含めて、それらは人間に本来的に備わっている、自分の身を守るための重要な仕組みであると考えます。つまり全体としての個人が、直面した脅威に対応するために、様々な苦しみを用いている、と考えるのです。

そのように踏まえた上で、アドラー心理学の治療では、その方がご自分の体験にどのような意味づけをし、それに基づいて、現在どう生きておられるのかについて焦点を当てます。そこから、これからどうすればより建設的な方向へ進めるかを、ご本人に寄り添って考えていくのです。

なお先述の通り、あるひとつの出来事がトラウマ事態として緊急的ないし慢性的な心理的危機を引き起こしている場合は、一般的にアドラー心理学によるカウンセリングの適応範囲にはありません。その場合『危機介入』の専門職など心理専門職の方の介入が優先されます。