病臥中

 発病して1年になる。年末くらいから自覚症状はほとんどなく、いちおう普通の人みたいに暮らしている。といっても、歩くのはまだ十分ではないし、すこし距離が長くなると休憩しなければならない。食事なども気をつけて食べているので問題はおこっていないが、油断して好きなものを好きな時間に食べると、きっとあとで障害がおこると思い込んでいる。昼寝も総計数時間は眠ってしまう。そのうえ、夜は9時から朝の6時半まで寝ている。だから、全体を評価すると、100点満点の60点はないかもしれない。それでもまあ、よくもここまで元気になれたと思っている。

 元来の人生計画としては、一昨年の暮れに一切の公職を退職して、あとは原稿を書いたり講演をしたりしていくらかの収入をいただいて、暮らしを立てる予定であった。ところが退職直後に発病し、収入はほとんどゼロになって病臥した。まあ、年金もあり保険もあってなんとかなったが、いつまでもこんなことはしておれないので、ぼちぼち考えてはいる。それでも、収支決算黒字にはならないだろうなあ。

 ガン細胞は除去できていない。お薬でもって勢いをそいでいるだけだ。いつ再発するかは、私もわからないし主治医もわからない。ただ再発することだけは確かだ。短くて半年先、長くて数年先だろう。その間にもう1冊本を書いておきたい。それだけが現在の望みだ。

 などと言っていて、本を一冊書き終わると、きっと「もう一冊」と言って別の本にとりかかるのだと思う。自分の性格をよく知っているので、「この世で書くことはすべて終わった」という状態には決して到達しないだろう。それは、本人にとっては、とても幸福なことだ。作業の途中で人生を終わるのが、もっとも私らしい終り方だと思う。