二の腕のストレンクス

突然ですが、皆さんは自分の体は好きですか。私は若い頃に比べ、大分ふくよかになった体をコンプレックスに思っていました。その中でも気になるのが二の腕です。今回はこの二の腕に起こった、思いもよらない勇気づけのお話しをしたいと思います。

私は小児科で働いています。制服の上にカーディガンを羽織るのですが、私にとってカーディガンは体温調節の他に二の腕を隠す役割もありました。しかし、この夏の猛暑でいよいよそれも難しくなり、私は渋々半袖になる決心をしました。

私が半袖になって間もない頃、ある兄弟の問診に入ることになりました。お腹を壊し、べそをかく5歳のお兄ちゃんと、それについて来た元気な4歳の弟くん。私がお母さんからお兄ちゃんの様子を聞き取っていると、弟くんがそっと私の左側にやって来ました。

私は弟くんにニコっと微笑みながら問診を続けました。すると弟くんが静かに私の左の二の腕に手を伸ばし、むにゅむにゅと触り始めたのです。私はびっくりしながらも可笑しくてしょうがありませんでした。みんなの目がお兄ちゃんに向けられ、注目関心でやっているのかな?と思いました。しかし、私には問診を取るという仕事があったのでお母さんとの話しを続けました。

少しして、今度は弟くんが私の右側に移動して来ました。私の右側は死角になるため、問診を取りながらも弟くんに危険がないよう細心の注意を払います。そんな中、私の右の二の腕に先程と同じ感触が訪れました。『右も触ってる!』笑いに耐えながらも、私は無事に任務を遂行しました。

その後、医師が診察に入りました。私は別の仕事をしていたのですが、診察室のベットに昇り降りする元気な様子が聞こえて来ました。『弟くん、飽きちゃったんだな。私も入って一緒に遊ぶかぁ~』と思い、診察の介助に入ることにしました。

私がカーテンを開け、中に入ると、弟くんが笑顔で駆け寄りました。そして、私を見上げて両手を上に伸ばしました。「ん?抱っこして欲しいの?」と聞き、私がしゃがみかけた時、

弟くんはその伸ばした手で、今度は私の両方の二の腕を触りむにゅむにゅしました。また注目関心なのかと思いつつも『この子は、抱っこより、私の二の腕が好きなのかな?!』と考えました。

私は笑いをこらえて、「抱っこする?」と聞くと「うん」と言うので、私は弟くんを抱っこしてお話しをしながら診察が終わるのを待ちました。そして、診察も無事に終了。弟くんもニコニコしながら帰って行きました。

その後、仕事中だったので、私が同僚に小声で「どうやら、あの子は私の二の腕を気に入ったらしい」と話すと、同僚は声を殺して笑っていました。家に帰り、息子にもその話しをすると「最高だっ!」と言ってしばらく大笑いしていました。あんな嬉しそうな息子を見るのは久しぶりでした。

今まで欠点だと思っていた二の腕に光がさした瞬間でした。見栄えは置いておくとして、「今」の私の二の腕は、小さな子には癒しや安心感を、また同僚や息子には笑顔を生み出す力があるいうことに気が付きました。そして、この気付きはとても大きな勇気づけとなりました。どんな自分であっても、必ず誰かの役に立つ力があると思うと、世界が変わってみえます。自分の良い所を見つけることの大切さを感じた出来事となりました。

北海道 七飯アドラー心理学研究会 M・S