虚詞(2)

 『虚詞』が話題になって、さいわいなことに『中国語虚詞辞典』というのが本棚の奥に見つかったので、なんとかなりそうになってきた。しかしなお翻訳をめざしているターラー菩薩の経文はまとまりが悪い。どうしても日本語にならない部分がある。やっているうちに、ふと、英語訳版がわが家にあるはずだと気がついた。いま扱っているのはこのあいだ台湾で手に入れた漢訳版だ。しかし、英語訳版はどこにあるかわからない。妻と相談したら、なんと私の本棚にあると言う。言うだけでなく、実際に行ってとってきてくれた。おお、ありがたい。これで逃げようもなくターラー菩薩と格闘しなければならないことになった。

 ターラー菩薩は、ある解説書によれば、仏教でただひとりの女性の菩薩なのだそうだ。他の菩薩はすべて男性であるが、彼女だけは女性を選んで転生し、いつかそのままで成仏されるんだそうだ。どういうわけか、ガルチェン・リンポチェのご本尊はターラー菩薩で、教団はターラー菩薩を本尊にして瞑想する。と言っても、何しろチベット仏教だから、他の菩薩も排除するわけではない。ターラー菩薩は男性に変身なさるみたいだし、変身なさらなくても男性の菩薩と「同体」になられるみたいだ。私自身はどうかというと、いまのところは阿弥陀仏と観音菩薩とターラー菩薩の三者を崇拝している。いや、三者と言っても対立はないみたいなので実際には一者なのかもしれない。