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カウンセリングと応用
世間一般の相談に乗る際のアドラー心理学からのアドバイスは、まずどのような相談なのか、この相談で何を目指すのかをお互いに明確にし、相手の能力を信じて、「相互信頼」と「相互尊敬」に基づく対等な関係のなかで相談に応じ、具体的な「エピソード」から「原因」ではなく「目的(競合的か協力的か)」を分析し、答えを与えるのではなく複数の「選択肢」を提示して相手自身に解決策を選んでもらうことです。
以下は単なる話の聞き方のテクニックではなく、アドラー心理学に基づいた、相談相手が自らの力で問題を解決できるようになるための、心構えと具体的な手法です。ただしこれらは専門的なカウンセリングの話ではありません。友人同士などの親しい間柄のなかで、「ちょっと相談に乗る」といったような話についてのアドバイスです。
相談に乗る前の大前提と心構え
まず、具体的な技術に入る前に、相談に乗る上で最も重要となる3つの前提があります。
- 相談は「契約」である
最も基本的なルールは、相手からの明確な要請なしに、勝手にアドバイスを始めないことです。「相談に乗ってほしい」「意見が欲しい」という相手からの働きかけを受けて、双方が相談に乗ることについ合意(契約)してこそ、初めて相談は成り立ちます。聞かれてもいないのに、いきなり「こうした方がいい」と助言し無断で相手の領域に踏み込むのは、人間関係のルール違反といえます。なお相談を持ちかけられた側にも、自分の専門外であったり対応が難しいと感じた場合に、無理をせず断る権利があります。 - 相手を信じ、解決を「委ねる」姿勢を持つ
相談に乗る側が、善かれと思ってつい陥りがちなのは、「自分が相手を助けてあげなければ」「正しい道に導いてあげなければ」といった、相手への支配的な考え方にとらわれてしまうことです。
相談に乗る側は、いってみれば「コーチ」であって、試合に出る選手本人ではありません。私たちは、その人が力を最大限発揮できるように手伝うことはできても、直接問題を解決する立場には無いのです。「相手には自分の力で問題を解決できる能力がある」と心から信じることが大切です。そうしたコーチと選手のような信頼関係がなければ、本当の意味での援助は不可能といえます。 - 相性がすべてであると知る
相談においても、相談する側とされる側の「相性」があります。たとえどんなに優れた専門家でも、相性が合わなければ、なかなか良い結果にはつながりません。もし、相手が自分に合わないと感じているようであれば、無理に相談を続ける必要はありません。「この人とならやっていける」という感覚を大事にしましょう。
すべての土台となる「良い人間関係」の築き方
良い相談は、良い人間関係という土台の上にしか成り立ちません。テクニック以前に、以下の4つの条件を満たす人間関係を築くことが相談には不可欠です。
- 相互尊敬
相手を一方的に「間違っている」「劣っている」と裁くのではなく、一人の対等な人間として心から敬意を払います。たとえ相手の行動が問題に見えても、そこには、「その人なりに、自分の理想に向かって一生懸命生きている」という善意があることを認めましょう。その人の「行為」と、その人の「人格」を分けて考える必要があります。ある「行為」が問題だとしても、だからといってその人の「人格」を否定してはいけません。 - 相互信頼
相談に乗る前の心構えで述べた「相手を信じる姿勢」と同じです。相手の能力を信頼し、課題を乗り越える力を信じ、最終的な決定は本人に委ねます。 - 協力
上下関係に立って相手を「指導する」のではなく、対等な立場で、相談する側と相談される側という「役割分担」をしながら、悩み事の解決という共通の目標を目指すのです。役割はお互いに違っても、人間としての価値は変わらないことを忘れずにいましょう。 - 目標の一致
「この相談がどうなったら成功(終了)なのか」というゴールを、相談のはじめに共有します。「夫婦関係を修復したいのか、それとも円満に離婚したいのか」など、目指す方向性を最初に明確にすることで、建設的な話し合いが可能になります。そうでなければ、相談の途中で話がかみ合わなくなりがちです。
問題を深く理解するための具体的な分析手法
上記のような良い関係を築いた上で、以下の手法を用いて、問題を分析していきます。
- 「レポート」ではなく「エピソード」に焦点を当てる
「いつも夫が冷たい」といった漠然とした意見(レポート)ではなく、「昨日の夜、こんな出来事があった」という一度きりの具体的な出来事(エピソード)を詳しく伺います。個別の具体的な状況の中にこそ、問題の本質が隠されているのです。 - すべての行動を「目的」から理解する(目的論)
人の行動を「何が原因か(原因論)」で見るのではなく、「その行動によって、どんな目的を達成しようとしているのか(目的論)」という視点で見ましょう。
人のすべての行動は、本人が無意識に「今より少しでも良い状態になりたい」という目的(仮想的目標)のために行われています。不登校も、いじめも、夫婦喧嘩も、その行動を取ることで本人が得ている「良いこと」が必ずあるのです。 - 目標の種類を「競合的」か「協力的」か見極める
相手の行動の「仮想的目標」を分析する際は、それが「競合的」か、それとも「協力的」か、このどちらのタイプであるかを見極めることが肝心です。
「競合的」な目標とは?
「どちらが正しいか/間違っているか」「どちらが善か/悪か」を決め、相手を打ち負かし、裁こうとする目標です。これは人間関係を破壊するだけで、何の解決にもなりません。この場合、たとえば「そのやり方では、あなたの本当の望みは叶わないのではないか?」と問いかけ、相手を裁くことの不毛さに気づいてもらう必要があります。
「協力的」な目標とは?
相手を裁く意図はなく、純粋に関係を良くしたいと願っているものの、残点ながら、うまくいっていない場合です。この場合、目標自体は素晴らしいものとして肯定します。問題なのは、その目標を達成するための「手段(対処行動)」が間違っていることです。(例:夫に早く帰ってきてほしいのに、不機嫌な態度で責めてしまう妻)
解決へ導くための最終ステップ
分析を通じて問題の構造が明らかになったら、最後は、相手が協力的な目標に向かって、自ら適切な一歩を踏み出せるように援助します。
- 複数の「選択肢」として提示し、相手に選んでもらう
競合的なままでいるか、協力的な方向へ踏み出すかについて、「Aというやり方とBというやり方がありますが、どちらを試してみたいですか?」というように、具体的な選択肢として提示し、最終的な決定を相手に委ねます。
(例:「ご主人が帰りたくなるような家作りを工夫してみますか?それとも、今まで通り不満を伝え続けますか?」)
相談に乗る側が「こうしなさい」と答えを与えるのではなく、相手が自分の意志で道を選ぶ手助けをすることが、その人の成長と自立につながります。たとえその選択が最適に見えなくても、その決定を尊重し、信頼し続けることが大切です。
