「~合う」幸せについて
仕事を通して、たくさんの子どもたちとかかわるチャンスをいただいている毎日です。パセージで学んだことを意識しながら、子どもたちを援助しているつもりですが、うまくいくこともあれば、失敗してしまうこともあります。
今回は、たくさんあるエピソードの中でも、特に印象的だったⅭさんとの出来事について綴ってみたいと思います。
Ⅽさんは、このところ、いわゆる勇気がくじかれている状態みたい。友達とも家族とも関係があまりうまくいっていないと考えているらしい。誰かと一緒に過ごしたり、勉強に取り組んだりする元気もないみたい。でも、幸い、私とは一緒に過ごしてくれます。
Ⅽさんと一緒に過ごす私としては、
「これならできるんじゃないかな?」
とか、
「これはⅭさんの得意なことだろうから、チャレンジしてみたらいいのになぁ」
とか、
「ここで逃げないで取り組んだら、少し成長できそうだけど」
なんてお節介な考えが頭の中に浮かびます。
そして、Ⅽさんにいろいろな提案をしてみるわけですが、断られることの方が多い…(撃沈)。
そんなある日、学校で、スポーツ大会の練習をすることになりました。
競技に参加する気にはなれない様子のⅭさんですが、みんなのために、練習時間前に競技で使う綱を準備しておく仕事をお願いすると、快く引き受けてくれました。
Ⅽさんと私、二人そろって、強い日差しの下、グラウンドに向かいます。大人でも一人ではなかなか運べない太くて長い綱を5本、倉庫から二人で出して、一輪車に載せます。二人で交代しながら一輪車を押して、グラウンドの真ん中まで移動。そこでまた一本ずつ綱を一輪車から降ろして、決められた場所に並べていきます。ジリジリ照り付ける太陽と、力仕事で、だんだん汗がにじんできます。それでも、二人で力を合わせて綱を並べ終わり、「暑かったねぇ」「疲れたねぇ」などと言いながら、一緒に校舎の中に戻りました。
手を洗ったり、汗を拭いたりした後、私はⅭさんに言いました。
「一緒にお仕事してくれてありがとう。助かったよ。ねえねえ、もしよかったら、冷たいお茶で二人で乾杯しない?」
Ⅽさんは、笑顔でうなづいてくれました。
涼しい部屋の中、水筒に入ったお茶でⅭさんと乾杯。そこには、なんともいえない幸せな時間が流れていました。
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あれは、2016年の春のことです。アドラー心理学に出会って3年目を迎えた頃、私は、能登半島で開催された「かささぎ座」に初めて参加しました。そこで、たくさんの心理劇を見せていただき、学んだことの一つが、人と人が「~合う」暮らしの幸せについてでした。
「私が相手に何をしてあげるか」でも、「私が相手に何をしてもらうか」でも、「私が相手に何をさせるか」でもなく、お互いが、わかり合い、助け合い、分かち合うことの幸せについて、あの日、野田俊作先生が私たちにお話して下さいました。そのことが私の心に深く深く残っています。
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Ⅽさんと一緒にあのとき味わった幸せな感じ。あれはきっと、二人で「~合う」ことができたからこそ感じられたものだったんじゃないのかな。
暑い中、一人ではできない力仕事を助け合いながらやり終えて、「私たち、がんばったよね」「おつかれさま」ってお互いを労い合い、気持ちを分かち合いながら、乾杯。この一連の出来事の間、私は、Ⅽさんに何かをしてもらおうとか、こうしたらいいのになんて考えはきれいに忘れていました。ただただ、一緒に仕事ができてよかったな、Ⅽさんと一緒にみんなのために働けてありがたいなという気持ちでした。
パセージテキストの中に、「タテの関係、ヨコの関係」について書かれてあるページがあります。人と「~合う」ことは、私が持っているヨコの関係のイメージの一つになりました。これからも、周りの人と「~合う」暮らしを目指しながら、アドラー心理学の学びを深め、工夫しながら実践していきたいと思います。
アドラーこ育て ここえん 秋田県 M