カンカイの骨

先日、パセージフォローアップの会が行われ、8名の参加がありました。今回は、私の事例を取り上げてもらいました。そこで得た学びや感想を書きたいと思います。

■私の家族は70代の私の両親と、2歳下の私の妹、15歳になる私の子どもAの5人家族です。この日、陸上をしているAは競技場の練習に出かけていました。19:00に帰宅し、すぐにプロテインでタンパク質の補給を済ませ、シャワーに向かいました。

その間、家族は先に食事を始めました。この日は「カンカイ」別名:氷下魚(こまい)という白身の魚が食卓にあがりました。このカンカイの味がとても良く、「塩味が絶妙ですごく美味しいし、まさにタンパク質の塊って感じ!」と家族みなで絶賛していました。しかし、Aはあまり魚を好みません。

今回の事例は、この食事の場面での母とのやりとりです。

母:「みーちゃん。これ(魚の)、骨取ってAにあげといて」(‐1)【呆れ】
私:「え?骨取ってあげるの?」
母:「そうしとかないと食べないから」(±0)
私:「『(A自身で)自分で骨取って食べて』って言えばいいんじゃない?」
母:「でも食べないから」(±0)
私:(呆れながらも、しぶしぶ骨を取る)
  「さっき、プロテイン飲んでたから、(魚を)食べないって言うかもよ」
母:(食事を続ける)(±0)

ロールプレイでは母を良く知るメンバーに母役をお願いしました。母役をやってみた感想は、「娘に『え?骨取ってあげるの?』と言われた瞬間に落ちた感じがあったし、娘の発言に『?』だった、悲しかった」というものでした。しかし、私はなぜ母が落ちるのか、悲しいのかが分かりませんでした。

そこで、皆さんに『母の適切な側面』と『私の適切な側面』を出してもらいました。

■母の適切な側面
・自分の考えを言葉で伝えている。
・家族の健康を心から願っている。
・Aの母(私)を立てている。
・私のことをよく見ている。
・家族のために食事を作っている。
・最後に言い返さなかった。
・必要最低限で伝えようとしている→言葉を選ぶ人
・争わない。
・やさしい。
・人に手をかけることを嫌がらない。


■私の適切な側面
・自分の考えを言葉で伝えている。
・感情的になっていない。
・やさしい(「プロテイン飲んでたから、食べないかもよ」と伝え、Aが魚を食べなかった場合の事前のフォローをしている)
・状況を伝える力
・争わないで受け入れている。
・母の意図をよく分かっている。

相手役の適切な側面を出すという行為は、事例提供者側の思考を良い方向へ切り替え、代替案を出すための大切な下準備だと感じました。この時も沢山の気付きがありました。母はいつでも家族の健康を願っているし、そのための手間は厭いません。そして、Aの母である私の役目を取ってはいけないとの配慮から、私に骨を取らせる案を提示したのだということが見えて来ました。

次は『母の課題』と『私の課題』を出すことにしました。

■母の課題
・Aに何とか魚を食べてもらう。
・私にAの母としての仕事をしてもらいたい。
・Aに健康でいてほしい。
・自分の能力を家族のために使いたい。

■私の課題
・子どもに自分で骨を取って食べてもらいたい。
・Aに健康でいてもらいたい。
・Aが自分で考えて決めてほしい。
・母にしゅんとして(落ち込んで)ほしくない。

課題の分離はそれぞれの課題を明確にし、協力のためにどんな歩み寄りができるかの大切な素材となりました。母は健康運動指導士を生業にしています。運動や栄養学に長けています。母はその力を家族のために使いたいと思っている。私も、育ち盛りでハードな運動をしているAの健康を心から願っています。課題を分離することで、一致出来そうな目標が見えて来ました。

次は代替案を探していきます。「え?骨取ってあげるの?」という言葉が母を劣等の位置に落としているという意見をもらったのですが、この「え?骨取ってあげるの?」という言葉は私にとって、とても大切な意味がありました。それはA自身に自分の体のことを考え、決めてもらいたいという私の願いがあったからです。

この言葉も残しつつ、母の願いも叶える案はないものかと模索しました。そこでメンバーからアイディアが出ました。私が「え?骨取ってあげるの?」と言い、母が「そうしないと食べないから」と言った後で「え?なんで?」とフラットに聞いてみるというものです。すると、母は何と答えるだろうか、きっと「魚はタンパク質の塊みたいなものだから、一番食べさせなきゃいけないのはAだよね!(^▽^)」だと想像しました。

開いた質問を陰性感情なしにフラットに使ってみることで、母の思いを理解することが出来ました。家族の健康を願う母に協力しようという気持ちが生まれました。以下、代替案を紹介します。

母:「みーちゃん。これ(魚の)骨取ってAにあげといて」
私:「え?骨取ってあげるの?」
母:「そうしとかないと食べないから」
私:「え?なんで?」
母:「魚はタンパク質の塊みたいなものだから、一番食べさせなきゃいけないのはAだよね!(^▽^)」
私:「あぁ、なるほどね、だから骨取ってでも食べてもらいたいの?」
母:「そうそう、みーちゃんも協力して」
私:「わかったよ、でも、さっきプロテイン飲んでたから、(魚を)食べないって言うかもよ」
母:(食事を続ける)

この代替案でロールプレイをしてみました。母役のメンバーからは「自分の力を発揮出来た感じ、娘を立てることも出来たし、孫の健康を気遣うことが出来た」と感想をもらいました。

■パセージフォローアップでの学び・感じたこと
私にはAの親としての願いがありました。A自身に自分の体のことを考え、決めてもらいたい。この願いはそのまま残すことに決めました。しかし、自分の考えを主張するのと同じくらい大切なことがありました。母の良い意図を理解し、母の願いに歩み寄ることです。私と母は生きて来た文化が違います。その違いゆえ、母を理解できないことが沢山あります。しかし、Aへの思いは同じなのです。こうやって一緒に子育てしてもらえることに感謝しなければいけないのだと感じました。

そして、自助グループは私に沢山の学びを与えてくれます。ひとりでは出来ないことも仲間と一緒なら叶えることが出来ます。私はこの先も仲間に勇気づけられ、そして同じように誰かを勇気づけていける人になりたいと強く思いました。

(七飯アドラー心理学研究会 北海道 M.S.)