アドラー心理学を教育現場で活かすには、どのような点に注意すればよいですか?

Category: カウンセリングと応用

アドラー心理学を教育現場で活かすには、アドラー心理学の理論、特に「目的論」に沿って様々な問題を考えることと、教師が生徒に対して「協力的な横の関係」でコミュニケーションをすること、この2点に注意が必要です。この土台の上に立つことによって、教科や人との関わり方など、将来社会をつくって行く人として必要な様々なことを、「賞罰」ではなく「勇気づけ」で学んでもらうことができます。

アドラー心理学を学校教育の現場で活かすためには、さまざまな機会に次の二つの点に注意することが重要です。

一つはアドラー心理学の理論、特に「目的論」にもとづいてものごとを考えているかに注意することです。
もう一つは、教師自身の、子どもたちをはじめとした他者との向き合い方にいつも注意を向けていることです。教師が「縦の関係」をつくる「競合的」な構えを持っていると、クラス全体も競合的な雰囲気になってしまって、いわゆる問題行動をする子どもが出てきたり、子ども同士の仲が悪くなってしまうことにつながります。反対に、教師が「横の関係」をつくる「協力的」な構えを持っていると、クラス全体が「協力的」な雰囲気になり、あたたかく、お互いに助け合うクラスになりやすいです。

ではそれぞれの注意点について、もう少し深く見ていきます。

  1. 「目的論」で問題を見る。
    アドラー心理学の基本前提のなかに「目的論」という考え方があります。
    クラスで起きた問題について考える時に、何が原因かではなく、どういう風になったよいのかを考える視点につながります。また、生徒の問題行動について考える時も、その子は何が原因でその行動をするのか、よりも、何のためにその行動をするのか、について考えると、問題解決の糸口が見つかりやすいとアドラー心理学は考えます。

    教師が問題だと感じるような行動をする生徒がいるときに、その行動の原因を考えてそれを取り除こうとしても、物理学や化学のようにははっきりとした原因が見つからないことが多いです。原因が見つからないときに原因を取り除くことは無理でしょう。行動の原因ではなく目的を考えるなら、その目的(目標)が、実現しても問題のないものであれば、目標が実現できるような他の行動を考えればよい、ということになります。

    人のすべての行動の究極的な目標は「所属」だ、とアドラー心理学は考えます。つまり、人の行動の目的は集団(社会)の中に自分の居場所を確保すること、と考えるのです。居場所を確保すること自体は、よい目的(目標)です。ひょっとしたら、生徒の「問題行動」も、クラスへの「所属」あるいは教師との「所属」という、本来よい目的(目標)のために行われているのかもしれません。そうであれば、生徒にその行動を改めさせる、という方針よりは、別の(問題とならない)行動で目標実現ができるように援助する方が、その生徒にとってもクラス全体にとってもプラスの方向へ向くと考えます。
    さらに関心がある方はぜひ、「Q こじれたコミュニケーションの5つの段階」をご参照ください。
     
  2. 「競合的な構え」と「協力的な構え」、「縦の関係」と「横の関係」
    競合的な構えは縦の関係をつくり、協力的な構えは横の関係をつくり出します。
    競合的な教育の中には、「権威的」な教育と「放任的」な教育があります。
    権威的な教育では、教師が生徒に命令し管理し生徒を支配しようとします。生徒は恐怖心から規律を守りますが、「権力を手に入れて弱い者を支配しよう」「強い者の前ではいい子でいて、陰では何をしてもいいや」などと考えるようになります。
    放任的な教育では、生徒のすることを何でも容認します。一見優しそうに見えますが、ウラを返せば無責任ということになります。限界を設定しないので、生徒は「自分がやりたいことは何をしてもよいのだ」と考えるようになり、自分で責任を取ることや、社会の中でしてはいけないことを学べません。また、自分がしたいことができないと、「自分がやりたいことができないのは○○のせいだ」などと、他者や社会を責めたりするようになるかもしれません。
    協力的な教育は「民主的」な方法をとります。教師は「教師と生徒は立場が違うが人間としては対等である」と考え生徒を「尊敬」「信頼」し「横の関係」を築きます。教師としての責任を果たし、生徒とたえず協力して問題を解決しようとします。そのような教師のあり方から生徒は責任を学び、教師とも、生徒同士も、協力し、話し合って物事を解決しようとするようになるでしょう。
    競合的で権威的な教育で使われるのが「賞と罰」という方法で、協力的な教育で使われるのが、「勇気づけ」です。

アドラー心理学を教育現場で活かすために不可欠なのが、以上の2点です。

次に、これらの点に注意しながらどんなことをしていくのがよいか、について述べます。

アドラー心理学では、人間が協力的な横の関係にもとづいて暮らせるのがよいことだと考えています。「勇気づけ」を行っていくことは、アドラー心理学を教育現場で実践することに他なりません。

「勇気づけ」の基礎と応用
それでは、「勇気づけ」というのはもう少し具体的にはどういうことでしょうか。アドラーをはじめアドラー心理学の先人たちは「勇気」や「勇気づけ」について様々な表現を用いています。野田俊作は育児学習コース『パセージ』で「『勇気づける』というのは、子育ての心理面の目標、1)私は能力がある。2)人びとは私の仲間だ。に向かうように、子どもを援助することです。」と述べています。
『パセージ』ではそのための実践的な方法を、段階を踏んで学んでいきます。
そのうちここでは最も基本的なことだけをご紹介しますと、

  • 子どもの話を聴く
  • 子どもの適切な行動や適切な側面を探す

この2つとなります。

「勇気づけ」というのは、ある特定の「言葉がけ」や行動などでは決してありません。ある言葉や行動が勇気づけになるかどうかは、教師の「構え」によっても違いますし、個々の子どもによっても違います。
たとえば子どもの話を聴くときに、「この子は困った子だ。なんとかしてあげなければ。」と思いながら聴くのと、「この子は困った行動をしたけれど、悪い子ではない。よいところもたくさんある。この子は何を望んでいるのだろう?」と思いながら聴くのでは、「勇気づけ」になるかどうかが全く違ってきます。また、たとえば「がんばれ!」という言葉が勇気づけになる子どももいますし、この言葉で勇気をくじかれてしまう子どももいます。ですから、何がその子にとって勇気づけになるかを知るためには、いつでも子どものことを観察していることと、プラスの感情を持って子どもとコミュニケーションすることがとても大切になります。

上述のような注意点や小さな実践を基礎としながら、さらに発展した実践として「クラス会議」を行う事ができます。
クラス会議は、みんなで自分たちのクラスをよりよいものにしていくためのものです。教師と生徒や生徒同士が協力的な横の関係で行われると、とてもよい勇気づけの場になります。ここでは教師は「ボス」ではなく「コーディネーター」の役割になります。クラスは、お互いに援助し会う場になり、クラスのルールなど決め事もここでみんなで決める事ができるようになるので、生徒は「民主的」な方法を学ぶ事ができます。

こうした事を実践するためには、文字情報ではなく講座で体験から学ぶのが効果的です。まずは基礎講座のご受講をおすすめします。

参考図書:『アドラー心理学でクラスはよみがえる』野田俊作・萩 雅子,創元社,2017

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