神道の話

 なんとなく『神道』の話をする。そこからだんだんと宗教、あるいは心理学、の話に進んで行くと思う。ちなみに、元原稿があって、『野田俊作の補正項』2014/20/12 あたりだ。ただし、かなり手が入っている。

1.神道の分類

 漠然と「神道」と呼ばれているものを細かく見てみると、少なくとも7種類ある。

  1.古代神道:仏教導入以前の時代の神道
  2.中世神道:仏教と習合した神道
  3.江戸神道:儒学あるいは国学と習合した神道
  4.明治神道:神仏分離後、明治政府の国策として作られた神道
  5.現人神神道:昭和前半に国を乗っ取った邪教
  6:現代神道:敗戦後の神社本庁の神道
  7:教派神道:神道系の新興宗教

 このうち、古代神道については、よくわからないと言っておくのがいちばん正直だろう。本居宣長や平田篤胤が復興したのは古代神道ではない。柳田国男や折口信夫が言うのも古代神道ではない。古代神道については誰もよく知らない。ちなみに「古神道」などと銘打っている本が出ているが、読んでみると、中世の習合神道から仏教用語を抜いて大和言葉で言いなおしたもので、骨格は中世神道であって、古代神道ではない。要するに、古代神道については。議論はあるが実質は知れていない。

 中世神道は古代神道が仏教と触れあってできた「新宗教」で、神道用語を使うのだが、骨格は仏教に近い。これはいまでも生きている。後の方で話をするのは、これと関係した神道だ。

 明治神道と現代神道は教義上はよく似ている。つまり、明治神道では天皇を『神』と思い込む動きがあったが、戦後神道ではそういうことはなくなっている。これが戦前の神道と戦後の神道の最大の違いかな。

 敗戦時に、占領軍は、現人神神道と明治神道を区別しないで、一律に神道を排斥したものだから、後で話がややこしくなっているところがある。まあ、普段は気にしなくていいのだが。現人神神道は昭和期の新発明で、古い神道とも関係がないし、現代の神道とも関係がない。そもそも日本の宗教といえるかどうかも怪しくて、キリスト教の一派じゃないかという疑いもある。これを「神道」という言葉で呼ぶのは、どの宗派であれ神道そのものに対して申し訳ないんじゃないかと思う。

 中世神道と江戸神道と教派神道は、個人の霊的救済を主たる話題にしているので、宗教の定義を満たしている。これにたいして、古代神道と明治神道と現代神道は、個人の霊的救済とはかかわりなく神々とのつきあい方を話題にしているだけなので、宗教とは言いがたい。これは大切なことで、「政教分離原則」を認めるとしても、現代神道は宗教ではないので、国家が利用してもいいことになる。たとえば大臣や公務員が公人として神社参拝をするとか、たとえば公的な建物を建てるときに地鎮祭をするとか、たとえば自衛艦に神棚を祀るとかいうことだ。私はいちおう船乗りなので、船霊(ふなだま)さまを祀っていない船なんて乗りたくないと思う。それは海上自衛官だってそうだろう。

 目に見えない神々を話題にするからただちに宗教だと思い込むのは、唯物論者の無知蒙昧であるにすぎない。神々は人間よりも前からこの土地におられ、われわれは神々から土地を借りて暮らしている。天皇以下、全日本国民が借家暮らしで、家主は日本の神々だ。だから、土地を使うときには地鎮祭をして地主神に挨拶を入れなければならないし、借りている間はあれこれ礼をつくさなければならない。これは人間の霊的救済とは関係のないことで、神々への礼儀であるにすぎない。だから、宗教ではない。ここの部分を認めてもらわないと、この議論ができない。逆にいうと、そこをはっきりさせることで、「宗教とは何か」ということをはっきりさせていきたいと思っている。

 中世人はこのあたりのことがよくわかっていて、たとえば高野山金剛峰寺は丹生都比売神社から土地を借りているので、礼をつくすだけでなく、地代を支払っていた。ときどき不景気になって支払いが滞ったりすると、訴訟が起こったりして、その文書がいまでも残っている。しかし、高野山の坊さんは、丹生都比売に霊的救済を期待していなかった。神さまとのおつきあいをしていたにすぎない。比叡山延暦寺と日吉神社の関係も同じことだと思うし、永平寺と白山神社の関係も同じことだと思う。仏教寺院でさえ神々に礼をつくしているのだから、俗人はもちろん地主神に対して礼をつくさないといけない。むかしの人は、毎日、家の神、竈の神、井戸の神、便所の神などに挨拶し、祭礼の日には村の鎮守の神に挨拶し、正月には歳神に挨拶して暮らしていた。

 しかして、これらはすべて宗教ではない。神々とのつきあい方であるにすぎない。これでもって個人が霊的に救済されることはない。宗教というのを、個人の霊的救済にかかわることがらに限っておいた方がよい。

 というわけで、最初にあげた神道の表のうち、

  2.中世神道:仏教と習合した神道
  3.江戸神道:儒学あるいは国学と習合した神道
  6:現代神道:敗戦後の神社本庁の神道
  7:教派神道:神道系の新興宗教

は、「形のない神」を相手にしているので「神道」の名で呼んで問題はすくないが、

  1.古代神道:仏教導入以前の時代の神道
  4.明治神道:神仏分離後、明治政府の国策として作られた神道
  6:現代神道:敗戦後の神社本庁の神道

は、「神の形」がなんとなくあからさますぎて、「神道」らしくない気がする。こういうあたりの「感覚」は、この話をするときには大切だと思う。