大きな傘

先日、息子のA が全道高校駅伝大会へ向かいました。私は仕事で応援に行けなかったのですが、チームメイトH 君のお母さんが現地の様子を動画や写真で送ってくれました。H 君のお母さんは「現地に着いてすぐの時に、うちの高校のジャージを着た子が相合傘で歩いていて、近づいたらH とA 君だった。ほのぼのして嬉しくなった」とメッセージをくれました。

A はバリバリの合理主義者で、無駄な物を一切省く性格です。しかし、彼は荷物の中に折り畳み傘ではなく、幅153cm もある大きな傘を持って行ったのです。「余計な荷物にならないの?」私でさえ思うところです。なぜ彼は、わざわざそんな大きな傘を持って行ったのでしょうか。実はこの傘には忘れられないエピソードがありました。中学生になった頃、A が「母ちゃん、もっと大きい傘買って」と頼んで来たのです。

A:「母ちゃん、もっと大きい傘買って」

私:「大きい傘ってどのくらいの?」

A:「わかんないけど、今のは小さいからリュックが濡れるから」

私:(ショッピングサイトで傘について調べ始める)「えー!何この傘?!153cm??こんな

でっかい傘があるんだ?!」

A:「それ買って!」

私:(まずい!そんな大きい傘をさしてたら皆の邪魔になるでしょ!言わなきゃよかった!)「いやいや、こんな大きい傘は無理だって!危ないって!お母ちゃんの背と同じくらいの大きさだよ!」

A:「いや!それがいい!面白くないと意味がない!」

私:「は?!面白いからって大きい傘は危ないって。朝は小学生とかもうじゃうじゃ歩いてるでしょ」

A:「絶対、それ!」

私:「無理、危ない傘は買えないよ!」

A:「なんでさ!」

その日、話しは決裂しました。A はなぜそんな大きな傘にこだわるの?面白くないと意味がないってどういうこと??私は彼を理解できないまま翌朝を迎えました。

登校前、玄関で靴を履くためにしゃがんでいる彼に話しかけました。

私:「なんであんな大きな傘なの?」

A:「大きな傘はもうひとり入れる。K が傘を忘れて来ても一緒に入って歩ける。自分は背が高いから小学生にすら傘は当たらない」

私:「そうなの?面白いって何なの?」

A:「大きい方が話題性がある」

私はH 君のお母さんから傘のメッセージをもらい、大きな傘が欲しいと言った時のこのエピソードを思い出したのです。

A は様々なことを自ら考え決断し、自分の課題はどんなにきつくても着々と実行していくとてもストイックな人です。その半面、団体行動を好まみません。A は一匹狼タイプ。なので、私には仲間を切り捨てる冷たい子に映っていました。そして、そんな風に育てた自分にも責任を感じていました。

しかし、私はA を誤解していました。A は大きな傘のよい使い道を知っているし、重く邪魔になるはずの大きな傘が、A にとっては仲間と繋がるための大切なツールとなっていることが分かったのです。

A は優しい子なのかもしれない。そういえば最近も炊事遠足があって、A のグループはカレーライスを作ると言っていました。打ち合わせでスプ―ンの話題がなかったそうで、スプーンがないと皆が食べられないからと言って、わざわざ人数分のスプーンを準備して持って行きました。A はA のやり方で社会と繋がろうとしていたのです。その方法は私とは違うのだと気が付きました。私はその話しをH 君のお母さんにしたところ、こんなメッセージをもらいました。

「傘の件、ウルっとしてしまいました。A 君が仲間思いなのは伝わって来ます。家族に愛され、大切に育てられたからだと思います。だから人に優しく出来るんだと思います。A 君がひとりで陸上の練習をしたがるのも覚悟を持っているからだと思います。自分で考え、自分の最適解を行動に移す。そして、お母さんはA 君の意志を尊重している。なかなか出来ることではありません。私も子ども可愛さから、辛い思いをして欲しくなく過干渉になってしまう。A 君の傘のエピソードは素敵な思い出ですね。子どもたちの思いをすっ飛ばしそうになった時、私もこのエピソードを思い出すようにしたいです。子どもたちが陸上という夢中になれるものに出会え、それを応援できるのは、親にとって本当に幸せなことですね」

私は彼女の言葉にとても勇気づけられました。忘れていたA の優しい面や自分で覚悟を決めて生きている姿を思い出すことが出来ました。アドラー心理学を学び始めてしばらく経ちましたが、何年経っても、その時々に新たな学びや感動があります。これから先もそれをじわじわと味わっていくのだろうと思います。私の周りには素敵な人たちが沢山居てくれる。感謝をして暮らさなくてはいけないと改めて感じるエピソードでした。__

北海道 M.S